いま人気の兜飾りを教えて?

2023年08月23日

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〇いまどき人気の兜飾りはコンパクト・おしゃれ・カッコイイ

コンパクトでスタイリッシュな五月人形が注目される昨今、なかでもとくに人気が高いのは兜飾りです。わが子を事故や災害から守る兜は、厄除け祈願から始まった端午の節句の本質にふさわしい節句飾り。鎧一式を飾る鎧飾りよりも小ぶりでシンプルな兜飾りは、広いお座敷が少なくなった現代の住環境でもリビングなどに飾りやすい大きさであることから、若い子育て世代の支持を集めています。多様なニーズに応えられるよう、デザインが豊富で価格帯も幅広いのも魅力です。

そんな兜飾りのトレンドは、コンパクト・おしゃれ・カッコイイの3つ。限られた場所でも小さく飾れるコンパクトなサイズ感。リビングのインテリアとも相性のよいおしゃれ感。そして、節句飾りでありながら大人をも魅了するカッコよさ。この三拍子が揃った兜飾りは毎年人気が高く、早々に完売してしまうこともあります。

とくに、五月人形は雛人形と違い、パパが主体となって選ぶことが少なくないようで、兜の造形や色彩の「カッコよさ」に並々ならぬこだわりを見せる姿をよく目にします。甲冑の知識が豊富なパパも多く、つくりや素材、色柄の意味を細かく確認される方もいらっしゃいます。どんな兜飾りが先輩パパ・ママの心に刺さり、購入の決め手となったのかを参考に、人気の高い兜飾りのポイントをいくつかご紹介していきましょう。「わが家もこんな五月人形を飾ってみたい!」と思える兜飾りが、きっと見つかるはずです。

〇小さくても本格的な兜飾りが支持されています

コンパクトに飾れる五月人形は、小ぶりであるがゆえに簡略的で安価なつくりなのでは……と考える方は少なくないようです。しかし実際には、大きさと品質・価格は必ずしも合致しません。五月人形の品質や価格を決めるのは、素材や仕立ての良し悪し。むしろ、小さいほうが細部まで美しく作り込む高度なテクニックが必要となるんですね。高級な伝統素材を使い緻密な匠の技でつくられた「これぞ本物!」と呼べる五月人形は、たとえコンパクトでも高価。しかし、そんな本物志向の兜飾りがいま人気を集めています。

少子化で一人ひとりの子どもに注がれる思いが強くなったこと、また両家のご実家が積極的に援助されるようになったことで、本当によいものを用意してあげたいと考える方が多くなりました。東西の最高峰とされる「京甲冑」「江戸甲冑」は根強い人気を誇り、名匠と呼ばれる甲冑師、名門と知られる甲冑工房が匠の技を競い合っています。貴族社会で育まれた「京甲冑」の兜飾りは、華麗で煌びやかな装飾が特徴。武家社会に根ざした「江戸甲冑」の兜飾りは、時代考証のもと実践用の甲冑をお手本とした重厚で質実剛健な意匠が魅力です。

本格的なつくりの五月人形をお探しの方には、国宝の奉納鎧を模写した兜飾りがおすすめです。奉納鎧とは、おもに平安・鎌倉時代、武士が祈りや感謝を込めて神社仏閣に奉納した甲冑のこと。神に捧げることが目的であったため、造形や装飾が美しいのが特徴です。武具というよりは美術工芸品としての価値が高く、腕の立つ多くの甲冑師たちがこれを模写した兜飾りを手掛けています。

2021年現在、18領の大鎧や胴丸が国宝に指定されていますが、双璧と呼ばれているのは奈良・春日大社所蔵の「赤糸威大鎧(あかいとおどしのおおよろい)竹虎雀飾(たけとらすずめかざり)」と青森・櫛引八幡宮所蔵の「菊金物赤糸威大鎧(きくかなものあかいとおどしのおおよろい)」です。「赤糸威大鎧(竹虎雀飾)」の兜は、吹き返しや鍬形台に竹と雀の透かし彫りが一面に施されていることから「竹雀之兜(たけすずめのかぶと)」と呼ばれています。一方、「菊金物赤糸威大鎧」の兜にはおびただしい数の菊の飾りに一文字が彫られていることから「菊一文字之兜(きくいちもんじのかぶと)」または「菊一之兜(きくいちのかぶと)」と呼ばれています。国宝に指定された名品を忠実に再現した兜飾りは、たとえコンパクトサイズであっても存在感は抜群。芸術品としても長く楽しむことができるはずです。

〇兜は後ろ姿も大事、威の色や模様にも意味があります

兜飾りを選ぶとき、錣(しころ)に使われる威(おどし)の色や編み目の模様にこだわる方もいらっしゃいます。錣とは兜の鉢から首を守るように垂れ下がった部分。威は錣を構成する小札(こざね)という板を結び合わせる紐。絹糸などの組紐を使った「糸威(いとおどし)」、鹿革の緒を用いた「韋威(かわおどし)」、絹織物の緒を使った「綾威(あやおどし)」があります。威は鎧の肩から垂れる大袖(おおそで)や、胴から垂れる草摺(くさずり)にも施されていて、日本独自の色彩美を表現しています。

威に使われる色としては、赤が最も多いでしょう。日本文化において、赤は生命の源である太陽の色であり、活力をあらわす色です。神社の鳥居に用いられるように、魔除けの色でもあります。「赤糸威」は国宝や重要文化財にも多く、五月人形でも赤糸威の兜飾りは人気。「赤糸威」でなはなくても、鎧兜の裾に赤を用いるデザインはとてもポピュラーです。わが子に厄を寄せつけず、元気でたくましく育ってほしいと願う五月人形に、赤はぴったりの色だといえますね。

「赤糸威」のほかに「紺糸威」や「白糸威」、「萌葱(もえぎ)威」も人気があります。紺は藍染を繰り返し得られる色で、日本の伝統色では深く濃い紺色を「搗色(かちいろ)」「勝色」呼び、甲冑によく用いました。藍染には殺菌防虫効果があることから、魔除けの意味もあったそうです。白は他の色に染まっていないことから、自分の意思を貫くという意味があり、何事にも動じない強靭な意思や清廉潔白をあらわしていいます。萌葱(または萌黄)は植物の芽が萌え出る色をあらわす日本の伝統色。強い生命力をあらわす色として、初陣に臨む若武者が好んで用いた色です。

威は1色とは限らず、さまざまな色の組み合わせで編み目に模様を施したものもあります。代表的な模様の一つに「沢瀉(おもだか)威」があります。沢瀉とはオモダカ科の水生植物のこと。葉の形が矢の先端に付ける矢尻に似ていることから「勝戦草(かちいくさぐさ)」の別名もあり、縁起のいい植物と考えられていました。その尖った葉に似せて、裾開きの三角形に威した模様が「沢瀉威」です。兜には錣の後ろに、鎧には大袖や草摺の正面に威されました。

また、上から下へ段々に濃くなるように同系色のグラデーションに威した「裾濃(すそご)威」といい、白から紫に変化する「紫裾濃威」は菖蒲の花色にも似た美しい威です。「曙(あけぼの)威」も裾濃威の一種で、朝日が昇る前の赤く色づいた空が白々と明ける様をあらわし、始まりを意味する縁起のいい色目とされています。逆に上から下に淡くなるグラデーションを「匂(におい)威」といいます。「萌葱匂威」は初夏に木々の緑がだんだん濃くなる様をあらわし、「櫨(はじ)匂威」は秋にハゼの葉が赤く紅葉していく様を表現しています。この他にも、上段だけ異なる色で威した「肩取(かたどり)威」や、下段だけ異なる色を使った「裾取(すそどり)威」、3~5色で威した「色々(いろいろ)威」など、さまざまな威の色目が考案され、鎧兜を彩りました。

兜飾りは前から見た姿の美しさ、カッコよさも大事ですが、後ろ姿もぜひチェックしてみてください。錣を彩る威の色や模様、編み目の美しさにも、兜飾りの魅力があふれています。

〇名将の個性があらわれる戦国武将兜が人気上昇中

最近は戦国武将の兜飾りも人気があります。以前から大河ドラマや時代劇でドラマチックに描かれる名将たちの生き様は人々の大きな関心事でしたが、昨今の歴史ブームのなかで五月人形にも戦国武将の兜飾りを選ぶ方が増えてきました。戦国時代の甲冑は、それ以前のものと違い、武将の信念や世界観を表現した個性的なデザインが目を引きます。同時に、英雄たちの功績や人柄にわが子の将来を重ね、「こんな人になってほしい」という親の願いを込めて選ばれることが多いようです。そんな武将通のパパ・ママが選ぶ戦国武将兜で、最も人気の高いのは上杉謙信と伊達政宗です。

越後を統一した上杉謙信は、「軍神」と呼ばれるように軍事戦術に長けた智将。その兜は三日月と太陽をかたどった日月前立(にちげつまえたて)で知られています。宿敵武田信玄が治める甲斐の塩不足を知り、塩を送らせた故事が「敵に塩を送る」の由来となったように、卑怯を嫌い義理堅い人柄もまた人気を集める理由となっているのでしょう。

奥州に君臨した伊達政宗は、幼少期に右目を失明したことから「独眼竜」と呼ばれた名将。大きな三日月の前立を黒一色の兜に掲げた甲冑と黒い眼帯でお馴染みですね。個性的な見た目だけでなく、豪胆で頭脳派、派手なパフォーマンスで人々を驚かせた政宗の魅力は、洒落者をあらわす「伊達男」の語源となったことからも伺われます。

戦乱の世を終わらせ天下統一へ導いた織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の兜飾りも根強い人気です。カリスマ的なリーダーシップで軍を率いた織田信長の兜は、織田家の木瓜紋が付いた南蛮兜。進取の気性に富んだ信長らしい個性的なデザインが魅力です。農民から天下人に前代未聞の大出世を果たした豊臣秀吉は、アヤメ科の植物である馬藺(ばりん)の葉を意匠化した馬藺後立(ばりんうしろだて)兜が有名。馬藺の葉で後光がさすようにデザインされた兜は、派手好きな秀吉らしさがあらわれていますね。戦国三英傑のなかで最も人気があるのは、260年続く江戸幕府の礎を築いた徳川家康の兜飾りです。とくに、繁栄と長寿の象徴であるシダの葉を前立に付けた大黒頭巾形の兜は関ケ原の合戦で着用し、大阪の陣でも身近に置いて勝利したことから、吉祥の兜として尊ばれています。

この他にも、「日本一の兵(つわもの)」と呼ばれた真田幸村は、鹿角脇立に六文銭の前飾りを着けた赤備えの兜が大河ドラマでも話題に。「甲斐の虎」と呼ばれた武田信玄は、獅子頭の前立にあしらい白い毛で兜鉢を覆った獅噛(しかみ)前立の兜が有名ですね。このように、偉大な戦国武将たちの武勇や生き様に魅せられて購入を決める人が多い戦国武将兜。五月人形にもストーリー性を求めるパパ・ママから、大きな支持を集めています。