雛人形の値段ってどう決まるの?

2020年09月02日

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〇雛人形の値段を決めるポイントは何?

 

お雛さまを買うにあたり、「どうして値段がこんなに違うのだろう?」と思ったことはありませんか。男雛女雛だけのシンプルな親王飾りなのに20~30万円するものもあれば、フルセットの7段十五人飾りが同じ値段で買える場合もあります。もちろん品質の良し悪しはあるにせよ、それだけで値段が10倍も違ってくるなんて、と疑問に思われる方も多いでしょう。雛人形の値段を決める要素はとても多く一概には言えないのですが、一般的に値段の差が生まれるチェックポイントがあります。すべてにこだわりを追求すると、とても高価なお雛さまになってしまいますが、好みと予算にあわせて、こだわりと妥協をうまく調整していくと、納得のいく雛人形選びができるはずです。

 

まず、お雛さまの値段は、種類・大きさ・数で決まります。これは見た目の差もはっきりとわかりますので、誰が見ても納得できると思います。雛人形には、衣裳を着せ付ける衣裳着雛人形と、胴体に彫られた溝に布を埋め込み衣裳を着たように仕立てる木目込み雛人形があります。布地の多さや着せ付ける手間から、一般的に木目込み雛人形よりも衣裳着雛人形のほうが高価です。ただし、これは衣裳に同じ素材を使った場合で、衣裳の品質が変われば、値段が逆転することもあり得ます。同じ品質のお人形であれば、小さいものより大きいもののほうが高く、親王飾りよりも十五人飾りのほうが高くなります。

 

しかし、現実はその通りにはいきません。一見してわかりづらい部分にも、値段を決める要素がたくさんあるからです。たとえば人形の本体をつくる素材。雛人形の伝統的な工程では手間暇かかる天然素材が使われますが、低価格を実現するために大量生産できるプラスチック等の安価な素材で代用したものもあります。衣裳も値段が大きく変わるポイントです。化繊を使い大ロットで機械織する安価な布と、極上の正絹を使い本物の金糸を織り込んだ金襴織物では、値段は10倍以上変わります。よい素材を使った格調高い雛人形には、お道具もつりあいのとれた高品質のものをあわせますから、セットにするとますます価格差が広がっていきます。

 

では、人形の素材や衣裳のどんなところが値段の差につながるのか、お道具の品質はどう違うのか、もう一歩踏み込んで見ていきましょう。

 

〇お人形のボディや頭をつくるのは天然素材か人工素材か

 

雛人形だけでなく、伝統的な日本人形は、木・紙・布といった天然素材で作られています。衣裳着の雛人形は木やわらの胴体に美しい布地を着せ付けていますし、木目込みの雛人形は「桐塑」という桐の木の粉末に糊を混ぜて固めた素材に衣裳を着せ付けています。頭は桐塑や石膏でできていますが、どちらも「胡粉」というハマグリなどの貝殻を砕いた白い粉を塗ります。これらの天然素材は扱いが難しく、製作工程のほとんどが手作業で行われます。十分な乾燥が必要な工程もあり、途中で欠けたりヒビ割れたりして使えなくなる場合もあります。「人形は顔が命」と言われるように、頭づくりにはとくに精緻な技術が必要です。胡粉の掛け方ひとつとっても顔の印象が変わりますし、目や口を描く「面相」も瞳にガラス目を入れる「入れ目」もわずかな加減でお顔の良し悪しが決まる繊細な作業です。

 

この手間暇かかるデリケートな作業を江戸時代から連綿と伝えてきたのが、人形づくりの職人たちです。人形づくりは分業制ですから、職人たちは工程の一部をそれぞれ専門に担っています。すべての工程を終え、一つの雛人形が出来上がるまでには、約1年の月日を費やしますから、本格的な雛人形は値段も高くなるのです。

 

しかし、現代では低価格のお雛さまにも需要があり、大量生産できる素材の代用も考える必要があります。たとえば、木目込み人形を作るときに使われる桐塑のボディは、人形の釜型を作ってから桐塑を型抜きし、余計な部分を削って乾燥。割れや凹凸を整えて、表面に胡粉を塗り筋彫りします。しかし、これを大量生産できる発泡スチロールで代用すれば、材料費はもちろん、職人の手作業による多くの手間と時間が省かれ、お値段はグンとお安くなるわけです。ボディだけではありません。雛人形の髪には、一般的に黒く染めた絹糸を使いますが、安価な合成繊維が使われることもあります。雛人形の「入れ目」にガラス目ではなく、プラスチック製の目を使う場合もあります。女雛の髪飾りも、アルミ製とプラスチック製があり、プラスチックに塗装したものは、色が落ちやすいという欠点も。逆に高級品には、銀細工の髪飾りを付けたお雛さまもあります。このように、お人形の素材が変われば、職人の手間も変わり、見栄えや値段に大きく関わっていくのです。

 

〇衣裳に使う生地は絹か化繊か

 

雛人形の値段を決めるもうひとつの大きなポイントは衣裳です。本格的な雛人形の衣裳には、一般的に「金襴」という金糸で模様を織り出した絢爛豪華な織物が使われます。金襴は室町時代に中国から伝わり、僧侶の袈裟や能衣裳、帯や表装などに用いられる高級織物です。地の素材には100%シルクの正絹を使うほかに、ポリエステルやレーヨンなどの化学繊維や、絹と化学繊維の混紡も使われます。さらに絹糸にもグレードがあり、とくに希少な繭からとる国産プレミアムシルク「新小石丸」は最高級品といえるでしょう。

 

100%シルクの光沢や色のやわらかさは、どんな合成繊維にも真似できない気品があり、雛人形の衣裳として着せ付けても、上品な輝きを放ち優雅です。しかし、最近では生地そのもののクオリティよりも、価格重視で化学繊維を使ったモダンな色柄の衣裳も増えています。値段が抑えられた分、お人形の数を増やしたり、お道具を付け加えたりという楽しみ方もできますので、お好みにあわせて選べばよいでしょう。

 

雛人形の衣裳は、素材だけでなく仕立ても大事です。高級織物の名門として名高い「誉勘(こんかん)商店」や「龍村美術織物」は人形裂地(きれじ)としても有名で、雛人形の品格を推し量るしるしになっています。織りの緻密さや歴史に育まれた奥深い色・柄は、ほかでは真似できません。そのかわり、30㎝で数万円の値が付く生地もありますので、衣裳にそうしたブランドが付くだけでも、化繊衣裳の10倍以上の高値がつくのも当然なのです。

 

ひととえの「かがやき」シリーズには、「誉勘商店」の極上本金や極上正絹の衣裳をメインに使用した格調高いお雛さまです。生地はすべてお人形用に絡みや柄の大きさなどを指定して織られたひととえのオリジナル。金襴の上に金彩蒔絵をほどこした衣裳や、プレミアムシルク「新小石丸」の織地に漆蒔絵を描いた衣裳もご用意しております。ひととえのお雛さまを気に入っていただきながらもご予算が厳しいというお声もいただき、2020年に姉妹ブランド「ふわり」を発表しました。衣裳やセット内容を見直し、パステルカラーを多用して「カワイイ」を追求した現代的なお雛さまです。どちらもひととえの自信作。ぜひ見比べてみてください。

 

〇台・屏風・お道具の材質や作り込みはどうか

 

お雛さまは天皇と皇后の結婚式の場面をあらわしているので、お人形の他に宴の飾りや祝膳、嫁入り道具や御所車など、さまざまなお道具が付属しています。これらの素材や作り込みによっても、雛人形の値段が変わってきます。たとえば衣裳着雛人形に多い大きな段飾りには、木製のものとスチール製の階段に赤毛氈が掛けられたものがあります。もちろん木製のほうが高価で、さらに蒔絵などで美しい装飾があれば、さらにお値段がはってきます。小さな木目込み雛人形の飾り台も、漆塗りのものと無垢材とでは価格が違ってきます。

 

屏風も和紙製か塗屏風かで値段が変わります。金や和の伝統色の和紙を使った屏風も趣深いですが、朱や溜の漆塗りに艶やかな色蒔絵をほどこした塗屏風は、つややかな光沢と華麗な装飾で、雛人形をいちだんと美しく引き立ててくれます。蒔絵にも職人による手描きのものとプリント装飾があります。ちなみに、ひととえでは日本画に使う絵絹(えぎぬ)を木枠に紗張(しゃば)りし、手描きで絵付けした「紐蝶番(ひもちょうばん)手描き屏風」というめずらしい屏風もお取り扱いしています。日本伝統の「紐蝶番」という技術は熟練を必要とする職人技。塗屏風よりも、さらに高価な屏風です。

 

嫁入り道具も、漆塗りに金蒔絵をほどこしたものは高級品です。箪笥や長持ちの引き出しが開くか、鏡に姿が映るかなど、細かいところまで本物そっくりに作り込んだお道具は高価です。塗りをほどこさず無垢の木の風合いを生かしたお道具は、漆塗りのお道具よりも安価です。さらに天然素材を使わず、樹脂製にプリントで模様をつけたものは、大量生産が可能なことから、見た目よりもお安く感じられるかもしれません。

 

雛人形は屏風やお道具も込々のワンセットで売られるのが一般的ですが、いまはお人形とお道具を自由にカスタマイズできるお店も少しずつ増えてきました。人形工房ひととえでも、「かがやき」シリーズはオールカスタマイズが可能ですし、「ふわり」シリーズはお人形と飾り台セットを自由に組み替えることができます。ホームページにはカスタマイズがシミュレーションできる「WEB de カスタマイズ」もご好評いただいております。ぜひお試しください。