娘のしあわせを願うお道具とお飾りで雛人形をもっと華やかに

2020年10月19日

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〇贅を凝らした「嫁入り道具」と「お輿入れ道具」
雛人形が普及した江戸時代、大名家の姫君が結婚する際、嫁入り道具をそのままミニチュアの雛道具として作らせ、雛人形とともに嫁入り道具のひとつとしたそうです。古い時代の結婚は、家と家が結びつく重要な儀式でした。漆塗りに金蒔絵を豪華にほどこした調度など、贅を尽くした嫁入り道具は、家の格式を示す大きな意味がありました。お雛さまサイズの小さなお道具ですが、いずれも細部まで精巧に作り込まれており、装飾も繊細豪華です。主役の雛人形を引き立てつつ、見ごたえ十分の雛道具にも目を向けてみましょう。

昔ながらの七段飾りの雛人形では、6段目に「嫁入り道具」が、7段目に「お輿入れ道具」が並びます。「お輿入れ」とは、かつて婚礼の日に花嫁が載った輿を花婿の家に担ぎ入れたことから、「嫁入り」と同じ意味をあらわします。雛人形では、「嫁入り道具」はおもに室内で使う調度で、箪笥・長持・鏡台・針箱・台子・重箱などがあります。一方、「お輿入れ道具」は屋外で用いる籠や御所車です。重箱は嫁入り道具のひとつですが、雛飾りでは例外的に7段目の籠と御所車の間に飾られます。

<嫁入り道具>
箪笥(たんす)  … 衣服をしまう箪笥は、代表的な嫁入り道具です。江戸時代に初めて作られた箪笥は、当時上流階級だけが持てる高級品で、豊かさの象徴でした。
長持(ながもち) … 衣服や寝具をしまう長方形の大きな木箱。端に竿を通すための金具があり、運搬するときには長持竿を通して運びます。上等品には漆塗りがほどこされました。
鏡台(きょうだい)… 化粧道具をしまう引き出し付きの箱と鏡を一体化した化粧台。現代風に言うとドレッサーですね。江戸時代の女性にとって身だしなみを整えることはとても重要でした。
針箱(はりばこ) … ミシンがない時代、裁縫道具は着物や布団を仕立てる唯一の道具類。裁縫道具一式を収めた針箱は、大切な嫁入り道具でした。
台子(だいす)  … お茶をたてるために必要な茶道具一式を置く棚です。千利休によって大成された茶道は、武家の子女のたしなみとされていたようです。
重箱(じゅうばこ)… 現代でもおせち料理やお祝いごとの料理に使いますが、食べ物を入れる容器として嫁入り道具のひとつとされました。婚礼のご馳走が入っていたかもしれませんね。

<お輿入れ道具>
籠(かご)      … 人が座る籠を棒でつるし、棒の前後を複数人で担いで運ぶ乗り物。地位階級によって仕様が変わり、大名や貴族が乗るものは装飾がほどこされた引き戸付きでした。
御所車(ごしょぐるま)… 牛に引かせた屋形車で、平安時代には移動のために身分の高い皇族や貴族が使用した乗り物。牛車を使うことは権威の象徴でもありました。

コンパクトな雛人形が主流となるなかで、お雛さまと一緒に飾れるお道具も限られてしまうことが多い昨今です。しかし、小さな芸術品ともいえる雛道具は、かつての日本の暮らしや文化も伝えてくれます。
人形工房ひととえでは、親王飾や五人飾をアレンジして、嫁入り道具やお輿入れ道具をコンパクトに組み合わせた雛人形も豊富にご用意しています。また、いまご自宅にあるシンプルなお雛さまに、嫁入り道具やお輿入れ道具を単品で買い足すこともできます。

〇つるし雛の飾り細工には縁起物がいっぱい

つるし雛の登場は、雛人形よりも少し遅れた江戸時代後期。雛まつりの風習が公家から武家へ、そして庶民へと伝わり、やがて江戸から地方へと広がっていった頃のことです。当時、江戸の町では大ブームとなっていた雛人形も、地方の貧しい家にとっては決して手の届くものではありませんでした。しかし、生まれてきた子どものしあわせを願う気持ちはみな同じ。女の子が生まれた家では、お母さんやおばあちゃん、さらには親戚のおばさんや近所の人たちまで加わって、小さなお人形を持ち寄り糸に吊るして、にぎやかに飾り付けお祝いしたのが始まりだといわれています。静岡県・稲取の「つるし飾り」、山形県・酒井の「傘福」、福岡県・柳川の「さげもん」は日本三大つるし飾りに数えられています。

かつては高価な雛人形の代わりに、端切れ布を使って作られたという「つるし雛」。現代では雛人形をさらにかわいらしく演出する飾りとして人気があります。飾られた細工物は、動物や花、野菜、遊び道具などさまざま。どれも「衣食住に困らないように」と願う縁起物ばかりです。そこに込められた思いを、一部ご紹介しましょう。

うさぎ   … 赤い目に魔除け病気除けの霊力がある神聖な生き物と考えられていました。
いぬ    … 犬は多産でお産が軽く済むことから、子宝・安産に恵まれますように。
ねずみ   … 大黒天の使いであることから、金運に恵まれ豊かに暮らせますように。
にわとり  … 朝を招き、滋養がある卵を産むことから、長寿や健康を願いました。
ふくろう  …「不苦労」にかけて、苦労を逃れ、福を招きますように。
さる    …「去る」にかけて、病や災いが去りますように。
這い子人形 … たくさんハイハイして、元気で丈夫な子に育ちますように。
桃     … 古来薬効があるとされた桃。邪気を祓い、延命長寿を授けてくれますように。
梅     … おめでたい松竹梅の一つ。特に紅白梅はお祝いごとに欠かせません。
竹の子   … 真っすぐ成長することから、すくすく育ちますように。
蓮根    … 穴があいていることから、将来の見通しが良くなりますように。
風車    … 風を受けて回ることから、良い風向きに恵まれ、物事がうまく運びますように。
太鼓    … 太鼓の音で邪気を祓い、福を呼びますように。
扇子    … その形から「末広」とも呼ばれる縁起物で、末広がりに栄えますように。
打出の小槌 … 大黒天が持つ打ち出の小槌は縁起の良い宝物。金運に恵まれますように。
三角    … 昔、薬袋は三角形をしていたことから、病気とは無縁で健康に育ちますように。

ご紹介したのは、ほんの一部。つるし雛には子どものしあわせを願う数え切れない思いが託されているのですね。
人形工房ひととえでも、雛人形の脇飾りとして、つるし雛はたいへん人気です。皆さんのご家庭のお雛さまにも、卓上サイズのつるし雛を添えて、よりかわいらしく華やかに飾り付けてみませんか。