かわいい雛人形で華やかにお祝いしよう(五人飾り編)

2020年09月16日

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〇三人官女は深い教養と多彩な才能に恵まれた女性たち

 

男雛女雛の親王飾りに三人官女が加わった雛人形を、「五人飾り」といいます。三人官女の「官女」とは、宮中に仕える女官(にょかん)のこと。男子禁制の後宮(こうきゅう)において官職を与えられ、皇后や妃の身の回りの世話をする女性たちをさします。彼女たちの役割は単なる生活上のお世話にとどまらず、姫君に礼儀作法や和歌、楽器の演奏などを教える家庭教師でもありました。深い教養と多彩な才能に恵まれたキャリアウーマンといったところでしょうか。宮廷行事では天皇皇后のサポート役となり、節会(せちえ)の饗宴ではお二人のそばで給仕も務めたようです。

 

三人官女が仕えるのは、もちろん男雛と女雛です。お雛さまは天皇皇后の結婚式の場面を模したものですから、盛大な婚礼の宴では男雛と女雛のすぐそばに控えて、気を配る必要があります。ですから、三人官女は親王飾のすぐ下、2段目に飾るのですね。

現在の雛人形は親王(2人)・三人官女(3人)・五人囃子(5人)・随身(2人)・仕丁(3人)の15人が「きまりもの」とされていますが、戦前には15人を超える雛人形を飾ることもありました。官女も3人では足らなかったのか、五人官女や七人官女もあったといいます。どれも奇数なのは、古来日本では奇数は縁起がよいと考えられていたからでしょう。

 

 〇三人官女の持ち物は酒器。種類によって並べ方が決まっています

では、お雛さまのなかで三人官女はどんな役割を果たしていたのでしょうか。官女たちが手に持つ小さくてかわいい道具に注目してみましょう。よく見ると、手に持っているものが3人とも違うことに気付くはずです。さらに、座っている人形と立っている人形があります。

 

真ん中の官女は座っていて、手には盃をのせた「三宝(さんぽう)」を持っています。左右の官女は立っていて、向かって右の官女は柄の長い「長柄銚子(ながえのちょうし)」を、左の官女はふたのない急須のような形の「提子(ひさげ)」を持っています。長柄銚子は盃にお酒を注ぐものですが、酒が少なくなると提子で長柄銚子に酒を足したので、提子は「加銚子(くわえのちょうし)」ともいわれます。

真ん中の官女が三宝にのった盃を差し出してお酒を勧め、長柄銚子の官女がお酒を注ぐ。長柄銚子にお酒がなくなると、すかさず加銚子の官女がお酒を補う―。官女たちがかいがいしく立ち回る様子や、気遣いの連携プレーが目に見えるようですね。お酒は天皇皇后に差し上げるものなのか、あるいは客人をもてなすものか定かではありませんが、これらの酒器は現代でも神前結婚式でおこなう「三献(さんこん)の儀」、いわゆる三々九度でも用いられます。雛人形は結婚式の場面ですから、男雛と女雛も御神酒で夫婦固めの盃をおこなったのかもしれませんね。

関西の雛人形では、真ん中の官女が三宝の代わりに「島台(しまだい)」を持っていることもあります。島台はご祝儀などの席に置く縁起の良い飾りもの。州浜に見立てた足つきの台に松竹梅や鶴亀を配しており、蓬莱山をかたどっているといわれています。

 

立ち位置と姿勢にも注目してください。よく見る雛人形は、中央の官女が座っていて、左右の官女が立っています。最近のかわいいお顔のお雛さまには少なくなりましたが、古式にのっとった雛人形では中央の官女だけお歯黒をしていて、眉毛を剃っています。これは既婚者のしるし。きっと真ん中の官女が年長者で、他の官女を指導する役割なのでしょう。

左右の官女の配置にも意味があります。日本は近代まで「左上座」の文化でした。この時の「左」は自分から見た方向ではなく、天皇から見た方向です。中国では「天子南面す」といわれ、皇帝は背を北にして南を向いて座るのがよしとされました。上座は太陽が昇る東側ですから、南面する皇帝の左側となります。天皇からみて左とは、天皇に対して向く人々にとっては、向かって右が上座となるのです。

この考え方で左右の官女を見てみると、長柄銚子の官女が上座である向かって右(男雛からみて左)に立ちます。これは長柄銚子が直接盃にお酒を注ぐ本酌だからでしょう。これに対し、サブである加銚子の官女は下座である向かって左(男雛からみて右)に飾ります。

 

〇女雛と三人官女の華やかでかわいい衣裳を楽しむ五人飾

女の子たちの間では、姫君である女雛と同じくらい、三人官女は人気です。いわゆる「きまりもの」と言われる雛人形のオールスター15人の中で、女性の登場人物は女雛と三人官女の4人のみ。お雛さまって、意外と男社会なんですね。そのなかで、親王飾りに三人官女を加えた五人飾は、5分の4が女性。大小さまざまな雛人形のなかでも、五人飾がことのほかかわいいと感じるのは、女子力MAXのお雛さまだからかもしれません。

 

五人囃子の少年たちや、随身・仕丁の男たちよりも、やはり宮中に仕える女性たちには華があります。皇后に仕えた女官は姫君に装いのアドバイスもしたといいますから、時代の先端をいくファッションリーダーでもあったわけです。三人官女も、女雛と負けず劣らず華やかな衣裳をまとっています。ひととえの三人官女も艶やかな上着に赤やピンクの袴を身に着けており、とてもかわいいコーディネートになっています。やはり明るい衣裳をまとった女性のお人形が増えると、いちだんと愛らしいお雛さまに仕上がりますね。コンパクトな雛人形が主流の現代においても、華やかでかわいい五人飾が人気なのもうなずけます。

 

親王飾を選んだけれど、やっぱり三人官女も付けておけばよかった―と思った方も心配ご無用。三人官女だけ後から付け加えることができます。人形工房ひととえでは、お客様のご希望にあわせて、オプション人形として三人官女や五人囃子などをプラスできます。初節句には親王飾をお求めいただき、年齢を重ねるごとに三人官女、五人囃子……と付け加えていくのも楽しいですね。

なお、三人官女を飾り付けるときには、3人の間に高坏を2つ置いて、お菓子などをお供えします。オプション人形には高坏が付いていませんので、お求めの際は「お道具カタログ」からお選びください。定番の紅白餅がのった高坏をはじめ、おしゃれなボンボニエールやかわいいうさぎ高坏など、ひととえらしい楽しいお道具が豊富に掲載されています。お手持ちの雛人形にあわせて、すてきなお道具を探すのも楽しいひとときです。