雛人形の飾り方、並べ方を教えて?

2020年09月07日

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雛人形とは

紙や草木で作った人形で身体を撫で、自分の災厄を映して海や川に流してお祓いをしたのです。この人形が雛人形の始まりと考えられています。

並べる前の注意点

人形店などで購入したお雛さまは、配送される際、お人形やお道具を個々に収めた小さな箱を、大きな箱にまとめています。配送時の収納は、人形店の専門スタッフが荷崩れや型崩れしないように丁寧に収めた、いわば「収納のお手本」。一年の多くを収納保存する雛人形は、このお手本にならい箱にしまうのが理想的です。どの箱に何が入っていたかはもちろん、どんなふうに入っていたかも覚えておくとよいでしょう。

そこで、飾り付けの際には片付けるときのことを配慮して、収納方法を写真やメモで残しておくことをおすすめします。大きな箱からたくさんの小箱を取り出すときにパシャリ。小箱からお人形やお道具を取り出すときにもパシャリ。お人形やお道具を包んでいる薄紙や、箱の中で動かないように隙間を埋めている緩衝材なども、どのように入っていたかを記録しておくと、片付けの時にスムーズです。スマートフォンで写真を撮ったら、片づけるときまで保存しておきましょう。

小箱はどれも似たような外見ですので、どの箱に何が入っていたか、それぞれに付箋やメモを付けておくとよいでしょう。薄紙や緩衝材は、片付けるときにまた使えるよう破かないように気を付け外し、入っていた箱に戻しておきましょう。お雛さまはとても小さく繊細なおつくりになっています。箱から取り出すときは丁寧に扱ってください。

雛人形の取り扱い

お雛さまを購入すると、多くの場合、白手袋・毛ばたき・ふきんといったお手入れセットをプレゼントしてもらえます。箱からお人形を出して飾り付けるときには、この白手袋をはめるようにします。どんなにきれいに洗っても手には多少の脂があり、素手でお人形をさわるとどうしても脂がお顔や衣裳に付いて、汚れや傷みの原因になります。お雛さまを長く美しく保つために、素手ではさわらないように心掛けましょう。

お雛さまの顔まわりの薄紙を外すときは、とくに注意が必要です。お顔に傷を付けたり、髪型を崩したりしないよう、ゆっくり丁寧に外しましょう。お人形を出したら、手に持つお道具や衣裳に付けるパーツが揃っているか確認します。どれも小さく繊細なので、壊したり型崩れさせたりしないよう、慎重に付けていきます。桜橘や紅白梅は、長く箱にしまっていることで花びらや葉が閉じ、枝が型崩れしていることがあります。花びらや葉はやさしく広げ、枝ぶりも格好よく整えてあげましょう。

並べ方の由来

お雛さまのお人形やお道具には、それぞれ意味があり、並べ方も重要です。多くは付属の説明書に沿って配置しますが、メーカーによって違いもあり、なかには特別な並べ方をするものもあります。ここでは、人形工房ひととえのフルセット、十五人飾の五段飾りを例にあげて、並べ方をご紹介します。

1段目:親王(男雛・女雛)
現代のお雛さまは、向かって左側に男雛、右側に女雛を並べるのが一般的です。古式にのっとった京雛では、左右反対に配置します。雛人形は天皇の結婚式がモデルなので上座に男雛が座るのですが、明治から大正時代にかけて日本の上座は左(向かって右)から右(向かって左)に変わったことに由来します。
親王の後ろには屏風、左右には燭台や雪洞(ぼんぼり)、男雛と女雛の間には三宝(さんぽう)、前には菱餅が置かれます。三宝の上には神様にお供えする神饌(しんせん)として、酒を入れる瓶子(へいし)に水引の付いたのしと花飾りが載っています。

2段目:三人官女
親王の下には、身の回りの世話をする三人官女が並びます。中央の官女は座っており、三宝を手にしています。三宝の上には結婚式の三々九度に使う盃を載せていることもあります。左右の官女は立っており、向かって右側に長柄銚子(ながえのちょうし)、左側に加銚子(くわえのちょうし)を持っています。三人の間にはお餅などを載せた高坏を2つ置きます。

3段目:五人囃子
3段目には、五人囃子を飾ります。五人囃子は、結婚式に能楽を奏でる少年楽師たちです。少年とわかるのは、まだ結い上げていないおかっぱ頭から。元服前の貴族の子弟で構成されました。向かって左から太鼓・大鼓(おおかわ)・小鼓(こつづみ)・笛・謡(うたい)の順に並べます。

4段目:随身
4段目に飾るのは、御所の警護にあたる一対の随身です。左大臣・右大臣と呼ばれることもあります。左右は天皇(男雛)から見た呼び名で、向かって左側に右大臣、右側に左大臣が並びます。護衛のための矢を持つことから「矢大臣」とも呼ばれます。二人の間には御膳などを置きます。

5段目:仕丁
5段目には、三人一組の仕丁を並べます。御所の雑用係で、向かって左から、台傘(だいがさ=日傘)・沓台(くつだい)・立傘(たてがさ(雨傘))を手に持ち、外出の準備を整えています。京雛では、庭掃除に必要なほうき・ちりとり・熊手を持ちます。仕丁の左右には、向かって左に橘、右に桜が置かれます。これは天皇が住まう紫宸殿(ししんでん)の前に魔除けとして植えられた「左近(さこん)の桜・右近(うこん)の橘」(左右は天皇から見た呼び名)を模しています。

ひととえのコンパクトサイズのお雛さまは、フルセットでも五段に収まるようにコーディネートしていますが、一般的な七段飾りの並べ方では、6段目・7段目に嫁入り道具や御所車などを飾ります。
ただし、最近では自由な発想で思い思いの並べ方を楽しめるようになりました。ひととえの十五人飾にも、随身の間に置く御膳を嫁入り道具や御所車に替えて、コンパクトでも豪華で華やかなお雛さまにお仕立てしているものがあります。ひととえではお道具のカスタマイズも可能ですので、ぜひお好みのお道具をプラスしてみてはいかがでしょうか。

関東と関西の違い

お内裏さまとも呼ばれる親王飾は、一般的に向かって左側に男雛が、右側に女雛がきます。しかし時折、男雛が向かって右側に、女雛が左側にくるものがあります。歴史の古いお雛さまを見ると、男雛が左側にくるものが意外と多いことに気付くでしょう。これは、先に書いた並べ方でも説明したとおり、明治から大正にかけて「左上座」から「右上座」に変わったことに由来します。

もともと日本は「左上座」の文化でした。これは古代中国の「天子南面す」の考え方によるもので、国を治める皇帝は天の中心である北極星を背にして南向きに座るのがよしされ、南面する皇帝から見て日が昇る東=左のほうが、日が沈む西=右よりも上位とされたからです。この考えが遣隋使によって日本にもたらされると、日本でも「左上座」の考え方が浸透していきました。

しかし、文明開化が花開いた明治時代、日本は西洋の文化を一気に取り入れます。西洋は「右上座」の文化で、西洋文化が定着した大正時代、大正天皇が公式の場で皇后の右側に立たれたことをきっかけに、昭和天皇の即位から正式に西洋式の「右上座」が採用されました。これにならい、関東のお雛さまは西洋式の並べ方に変わったのだといいます。一方、伝統を重んじる京都では、いまも古式にのっとった並べ方で男雛・女雛を配置させています。関東雛と京雛では男雛と女雛の並びが左右反対になる理由です。

ただし、お雛さまには親王以外にも古来の「左上座」にのっとった並べ方になっているものがあります。例えば、三人官女は向かって右に長柄銚子、右に加銚子を飾ります。長柄銚子が本酌で、加銚子が従酌になるので、上位は長柄銚子となり、「左上座」で向かって右側に置く訳です。五人囃子も主役は謡い手ですので、向かって右端に配置。随身も年配の左大臣が若い右大臣より偉いので、向かって右手に置かれます。
男雛と女雛の位置だけは変わっても、その他の並べ方は伝統のまま残っているのも面白いですね。