いまどうして木目込雛人形が人気なの?

2020年09月30日

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〇コンパクトで本格志向の木目込雛人形が注目されています

雛人形には大きく分けて、衣裳着人形と木目込み人形の2つがあります。これまでの主流はリアルに衣裳を着せ付けた大ぶりの衣裳着人形が主流でしたが、若い子育て世代の住宅事情やライフスタイルの変化によって、最近では小ぶりな木目込み人形が注目され、人気が急上昇しています。なぜ、いまこんなに木目込みの雛人形が注目されているのか、その魅力を探ってみましょう。

木目込み人形の一番の魅力は、小ぶりでコンパクトなこと。手のひらに収まるほどのかわいらしいサイズで、リビングの棚に飾っても圧迫感がなく、しまう時にも場所をとらないことが、マンションやアパートに暮らす若い子育て世代の暮らしにマッチしているからです。衣裳着人形であれば、リビングに飾る場合に親王飾りで我慢しなければなりませんが、人形ひとつひとつが小さい木目込み人形ならば、子どもたちが大好きな三人官女や五人囃子を従えた十人飾りや、随身・仕丁まで勢揃いの豪華な十五人飾りでも、省スペースで楽しめます。
小さくて軽いということに加え、「木目込む」という製作方法から衣裳着人形に比べて着崩れがしにくく、扱いやすいというのも利点です。お子さんが少し大きくなったら、一緒に雛人形を飾り付けたいと考えているママも多いと思いますが、木目込み人形ならばその夢も早くかなうことでしょう。

さらに、ころんと丸みを帯びたかわいらしいフォルムも大きな魅力です。お顔もあどけなさが残る愛くるしい丸顔で、小さい子どもからご年配の方まで、年齢を問わず人気があります。人形作家の個性が反映されやすい人形なので、新しい感性でつくられたモダンな雰囲気のお雛様も多く、洋室にも馴染み、今どきの “インスタ映え” する飾り付けにだってマッチします。
かつては素朴な人形といわれた木目込み人形ですが、現代の木目込み人形は衣裳に高級な金襴織物などを惜しげもなく使った高級品もあります。親子二世代で選ばれることが多いお雛様ですので、おしゃれな雛人形を探している若い世代と、間違いのないしっかりした雛人形を選んでほしい親世代、どちらの願いもかなえてくれる本格志向の木目込み雛人形が、いま注目の的なのです。

〇木目込み人形はどんな人形なの? どうやってつくるの?

現代では “いいこと尽くし” の木目込み人形とは、いったいどんな人形なのでしょうか。まず、その歴史から紐解いてみましょう。

木目込み人形のはじまりは江戸中期。元文(げんぶん)年間(1736~41年)に京都の上賀茂神社に仕えていた神官が、神具の柳筥(やないばこ)を作るのに使った木の余りで小さな人形をつくったのが最初といわれています。この人形は、小さな木彫りの人形に筋彫りをし、その筋に衣裳となる端切れ布を木目込んだのもので、当初は賀茂でつくられたことから「賀茂人形」と呼ばれていました。賀茂人形以前の人形といえば、人形用に縫った衣裳を着せる「着せ付け人形」か、木彫りに直接彩色した素朴なものばかりでした。

この新しい手法で衣裳を木目込む人形は珍しがられ、当時文化の中心であった江戸にも伝わり、江戸独自の発展を遂げます。最初は一体ずつ木を彫刻していましたが、やがて桐の粉末に糊を混ぜた桐塑(とうそ)を鋳型に詰め込んで原型と同じ塑像を作る方法が生まれました。さらに、木目込む衣裳もしだいに美しく豪華なものが好まれるようになり、伝統工芸品としての「江戸木目込み人形」が確立しました。

人形は、数多くの工程を経て、できあがります。一人の職人がこのすべてを行うことはなく、それぞれの工程を専門の職人たちがリレー形式でつないでいきます。人形づくりの分業制というスタイルは、いまも江戸時代と変わりません。人形工房ひととえの木目込み雛人形も同じです。原型づくりから、木目込み、仕上げまで、何人もの職人の手を通して、ようやく一体の木目込み雛人形ができあがるのです。製作工程は下記の通りです。

【木目込み雛人形ができるまで】

① 原型づくり
粘土で人形の原型をつくります。これを木枠の中に入れ樹脂などを流し込んで型をとります。この型を「かま」と呼びます。

② かま詰め
桐塑をかまに詰め、ボディをかたどります。桐塑とは、桐の粉に糊を混ぜて練った粘土状の生地です。余計な部分を削ったら、乾燥室で十分に乾燥させます。

③ 胡粉(ごふん)塗り
乾燥後、生地表面の割れや凸凹を桐塑で補正したり、やすりで整えたりして、ボディを仕上げます。貝殻の内側を粉末にした胡粉(白い顔料)を、ボディ全体に塗ります。

④ 筋彫り
胡粉が乾いたら、仕上がりをイメージしながら、布地を木目込んでいくための細い溝(筋)を彫っていきます。

⑤ 木目込み
型紙にあわせて、衣裳用に布地を裁断します。溝に糊を入れ、目打ちや木目込みベラを使って、布地を溝にしっかりと押し込んでいきます。

⑥ お顔づくり
同じようにかたどった頭に面相(めんそう:顔を描くこと)や入れ目(ガラスの目をはめ込むこと)を施します。髪の毛を植え込み、結うなどして整えます。

⑦ 仕上げ
ボディに頭や手を取り付けます。ブラシで髪の毛を整え、木目込みの仕上がりを確認して、完成です。

〇伝統の職人技にこだわり続けるひととえの木目込み雛人形

木目込み人形は、人形師の個性が際立つ人形といわれています。とくに原型づくりは人形の印象を決める大事な工程です。木目込み人形は、衣裳となる布地がボディにぴったり張り付くように出来上がりますので、原型づくりには職人の作風が如実にあらわれます。
人形工房ひととえにおいても、この工程は最も気を使う作業です。熟練の原型師が長い時間をかけて作り上げる姿は、どの角度から見ても美しく愛らしいフォルム。衣裳を着せ付けたときにどう見えるか、衣裳が最大限に映えるように計算されています。

昔ながらの伝統的な素材を使うのも、ひととえのこだわりです。最近では大量生産や作業時間の短縮のために、ボディにウレタンなどの人工素材を使うメーカーも増えましたが、人形工房ひととえでは天然素材である桐塑を使い、手間暇かけて雛人形をおつくりしています。桐塑でつくられたボディは、ウレタンでは決して出すことのできない曲線美が表現でき、手にしたときのぬくもりも格別です。

もちろん、お顔の印象も大事です。木目込み人形には「書き目」のお顔が多かったのですが、現代ではガラスの目を一つひとつ入れ込んでつくる「入れ目」のお顔も多くなりました。子どもたちにとっては、おすまし顔よりもパッチリとして目のかわいらしいお顔が好まれているのですね。
ひととえの雛人形は、すべて手間のかかる「入れ目」仕上げ。人形が小さい分、その作業には緻密さが必要とされ、高度な技術が必要となります。しかし、ひととえの愛くるしいお顔づくりに、「入れ目」のつぶらな瞳は欠かせません。

衣裳の配色も雛人形のデザインに大きく関わるところで、作家の個性が際立つポイントです。ひととえの雛人形の特徴は、「ひととえカラー」ともいえる独自の鮮やかな配色にあります。
とくに「かがやき」シリーズには、江戸時代から続く京都の老舗「誉勘(こんかん)商店」などの最高級正絹織物を使用。糸の絡みや柄の大きさを指定し、何度もサンプル織りを重ねて完成する、ひととえオリジナルの織地を使っています。100%シルクにしか出せない上品な色と光沢、配色の妙は、ひととえの大きな魅力となっています。

雛人形は小さなお子さんがはじめて体験する “日本の伝統” になることでしょう。昔ながらのやさしい天然素材と、受け継がれた伝統の技でつくられた本物を、千年以上も続く日本人の思いとともに贈ってみませんか。